はじめに
結論から申し上げますと、相続放棄をした故人名義の車を放置しても良い場合とダメな場合があります。
1.相続放棄をした故人名義の車を放置しても良い場合
相続放棄をした故人名義の車を放置しても良い場合は、相続放棄をした時に相続人が故人名義の車を使用していなかった時です。
相続放棄をした時に相続人が故人名義の車を使用していなかったのであれば、相続放棄をすることにより相続に関しては故人とは他人となります。
例えば、近所のおじさんが亡くなったとして、そのおじさんの車が路上に放置されていたとしても、あなたは関係ありませんよね? 相続放棄をすると、近所のおじさんが亡くなったのと同じ状況になります。
2.相続放棄をした故人名義の車を放置したらダメな場合
相続放棄をした故人名義の車を放置したらダメな場合は、相続放棄する時までに故人名義の車を実質的な使用者として使用していた場合です。
なお、車の実質的な使用者とは、故人名義の車ではあるが、ほとんど故人の子どもしか車を使用していなかったような場合です。たまに故人の車を借りて買い物に行ってた程度では、車の実質的な使用者に該当しません。
相続放棄する時までに故人名義の車を実質的な使用者として使用していた場合には、相続放棄に関する民法940条1項に引っ掛かります。
それでは、民法940条1項を見てみましょう。
「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は(中略)相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。(以下省略)」
この条文を分かりやすく表現すると、
「あなたが相続放棄をしたとしても、相続放棄する時までに故人名義の車を実質的な使用者として使用していたのであれば、他の相続人か相続財産清算人にその車を引き継ぐまでの間、あなたはその車を管理しなければなりません。」
と書かれています。この「管理しなければ」という責任を「相続放棄後の管理責任」といいます。
したがって、相続放棄をした人が、相続放棄する時までに故人名義の車を実質的な使用者として使用していた場合には、「相続放棄をしたから後はよろしく頼む」と他の相続人や相続財産清算人に車を引き渡すまでの間、車の管理を継続する必要があります。
なお、相続財産清算人とは、相続人が誰もいない場合に成立する相続財産法人の代表者です。
相続財産法人を分かりやすく説明すると、相続放棄をした故人名義の車は法人となります。法人とは法律によって作られた人です。ということは、相続財産法人は人間です。
人間といっても身体がないので、触れ合うことはできませんし、頭や手足がないので相続放棄をした故人名義の車に関する手続きをすることができません。
そこで、利害関係人からの申し立てにより、相続財産清算人という人が裁判所から選任されます。株式会社の社長みたいな人です。
その相続財産清算人が相続放棄をした故人名義の車を売却するなどします。その売却代金を故人の債権者に配当したり、国庫に帰属させたりします。
3.相続放棄後の管理責任を負う場合の管理方法
相続放棄後の管理責任を負う場合に、故人名義の車を路上に放置したままにしているとレッカー代を請求されてしまいますし、車の管理を怠ったことにより車の資産価値を下げるようなことがあれば、他の相続人や相続財産清算人に損害賠償を請求される可能性があります。まずは、駐車場を借りて故人名義の車を保管しましょう。
そして、どの程度管理をすれば良いかについてですが、民法940条1項は、
「自己の財産におけるのと同一の注意をもって」
と規定しています。何もわざわざシャッター付きのガレージを借りる必要はなく、自分の家の駐車場に駐車してたまにエンジンを掛けたりしておけば良いのです。
4.相続放棄後の管理責任を免れる方法
相続放棄後の管理責任を免れる方法としては、①他の相続人に引き渡す。②相続財産清算人に引き渡す。③廃車にする。の3つが考えられます。
(1)他の相続人に引き渡す
他にも相続人がいるのであれば、その相続人に車を引き渡せばそれでおしまいです。
(2)相続財産清算人に引き渡す
他の相続人が誰もいなければ、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てて、選任された相続財産清算人に車を引き渡せば良いです。
ところが、相続財産が少額で、相続財産清算人に支払う費用や報酬をまかなう余裕がない場合、家庭裁判所に一定の金額を「予納金」として支払わなければならないことがあります。予納金は通常、数十万円から100万円ほどかかります。
もっとも、相続財産から相続財産清算人に報酬を支払うことが可能であれば、予納金は後で返還されることになりますが、相続財産が少なく予納金が返還される見込みがないときがあります。
そのような場合にまで、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てても赤字となります。よって故人名義の車を廃車にすることの検討が必要です。
(3)廃車にする
明らかにボロボロな車で資産価値がない場合には、相続人が故人名義の車を廃車にしても問題はないと考えられています。
ですが、念のため、中古車買取業者に査定を依頼して車の資産価値を算出しておいた方が良いでしょう。
もっとも、故人名義の車を廃車する行為は故人の債権者を害する行為になりえるため、廃車にする際は、事前に司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。
また、故人の債権者からの言い掛かりに備えて、車に価値がないことを示す査定書など客観的な資料を保管しておく必要があります。
おわりに
いかがでしたでしょうか? 相続放棄には期限もありますし、相続放棄をした故人名義の車を放置しても良いかどうかの判断が付かなければ、お早めに司法書士に相談してください。
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