はじめに
故人がタンスに隠していた現金を相続人が見つけたら、「この現金は記録にないし、隠してもバレないかも」と考えてしまいがちです。そこで、このページでは、遺産相続で現金を隠すとどうなるのかについて説明します。
目次 1.相続放棄ができなくなる可能性 2.相続放棄が取り消される 3.他の相続人や故人の債権者に損害賠償請求をされる 4.税務署にバレてペナルティを受ける 5.現金を見つけた場合の対処法 6.現金を隠したらなぜバレるのか? |
1.相続放棄ができなくなる
故人が亡くなった後、相続人は3か月以内であれば相続放棄をすることができます(民915Ⅰ)。
しかし、民法921条1号は、相続財産を「処分」すると相続放棄ができなくなると規定しています。
「処分」の具体例として、相続人が故人の財産を売ったり、担保に入れたり、破壊したりする行為があります。これらの行為をすると、「相続を承認したのだから、自分の物としてそういうことをしたんだよね?」ということになり、相続放棄ができなくなってしまいます。
遺産として見つかった現金を隠すことは通常「処分」には当たらないですが、これを隠す行為が「自分の物にしよう」という意図を持つ場合、それが「処分」とみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。
2.相続放棄が取り消される
民法921条3号は次のように規定しています。
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
「相続人が、(中略)相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し(中略)たとき。」
相続放棄をしたにもかかわらず、故人の現金を隠したり使ったりすると、相続放棄は無かったことになって、相続を承認したとみなされてしまいます。
3.他の相続人や故人の債権者に損害賠償請求をされる
現金を隠さなければ、他の相続人や故人の債権者はもっとお金を貰えたはずです。そのため、他の相続人や故人の債権者は、現金を隠した相続人に対し「利息を払え!」「あなたが現金を隠したことにより損害を被った!」などと主張することが可能となります。
4.税務署にバレてペナルティを受ける
隠した現金を使って家や車など高価な買い物をした場合には、「なぜこの収入でこんな高価な買い物ができるんだ?」と税務調査の対象となり、場合によっては家宅捜索も行われます。
税務調査の結果、遺産相続で現金を隠したことがバレてしまった場合には、無申告加算税、過少申告加算税、延滞税、重加算税などのペナルティがあります。
(1)無申告加算税
・確定申告を期限までに行わなかった場合に適用されるペナルティ。
・納付すべき税額のうち50万円までは15%、50円超は20%の税率が適用される。
・2024年1月1日からは、新たな税制改正により、50万円超300万円以下は20%、300万円超は30%に変更。
・期限後1ヶ月以内の申告や税務調査通知前の自主申告で軽減可能。
・悪質と判断された場合は重加算税が適用される。
(2)過少申告加算税
・申告済みの税金が少なかったり、還付額が多すぎた場合に発生。
・50万円までの追納税金に対しては10%、50万円超は15%が課される。
・税務調査通知前の自主申告で適用されない。
(3)延滞税
・法定納期限までに納税されなかった場合のペナルティ。
・納期限の翌日から2か月以内は年2.4%、2か月超は年8.7%の税率が適用。
(4)重加算税
・悪質なごまかしや隠ぺいがある場合に適用。
・過少申告加算税の代わりに35%、無申告加算税の代わりに40%が課される。
なお、脱税と判断されると、追徴課税のみならず、刑事罰(10年以下の懲役や1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科)の可能性があります。
5.現金を見つけた場合の対処法
遺産相続で現金を見つけた場合には、正直に他の相続人に告げ、遺産分割協議を適切に行い、税務署に正しい相続税の申告をする必要があります。
また、遺産分割協議や相続税の申告が終わった後であれば、速やかに遺産分割協議のやり直しや相続税の修正申告をする必要があります。
どうすれば良いか分からなくなってしまった場合には、お早めに司法書士などの専門家に相談してください。
6.現金を隠したらなぜバレるのか?
多くの場合は税務調査で現金を隠していたことが発覚します。また、故人が生前に多額の預貯金を引き出していた場合には、その金融機関の取引履歴から他の相続人や故人の債権者が「何か怪しいな」と、故人と近い関係にあった相続人を疑います。そして、他の相続人や故人の債権者から訴えられて、ついつい自分から話してしまう、、、ということが多いです。
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