相続

自動車、バイク、船舶、航空機の相続(名義変更)について

はじめに

 このページでは、自動車、バイク、船舶、航空機が相続財産に含まれる場合の相続手続きについて説明します。

1.自動車、バイク、船舶、航空機の管理方法

自動車

(1)自動車等の調査及び特定(登録制度)

 被相続人が残した相続財産の中に自動車、バイク、船舶、航空機など(以下「自動車等」といいます。)が含まれていることがあります。これらの資産は動産(不動産以外の物)に分類され、相続人が相続すべき財産となります。
 まず、相続人または遺言執行者は、相続が始まった後、速やかに自動車等の詳細な情報を確認する必要があります。具体的には、自動車の場合は車種、型式、年式、車台番号、所在場所、自動車検査証の有無、名義、ローンやリース契約の有無などの情報を調査します。バイクの場合は車名、型式、車台番号、原動機の型式、名義、自動車検査証の有無などを調査し、原動機付自転車や船舶、航空機の場合も関連情報を調査します。
 次に、相続人や遺言執行者は、自動車等の権利関係を明らかにするため、必要に応じて、関連する行政機関等に照会を行います。これにより、例えば自動車の所有者はローン会社だが使用者は被相続人となっているなど、自動車等の権利関係が判明します。
 なお、照会先の行政機関等は次のとおりです。
①自動車、バイク(自動二輪車)
運輸支局に照会します。
②軽自動車
軽自動車検査協会に照会します。
③原動機付自転車
市区町村役場の税務課に照会します。
④船舶
地方運輸局または日本小型船舶検査機構(JCI)に照会します。
⑤航空機の場合は国土交通省航空局総務課航空機登録担当官に照会します。
 照会するのに必要な書類はそれぞれ異なりますので、事前に照会先に確認する必要があります。

(2)自動車等の管理方法

 相続人は、各自が単独で自動車等の修理を行うことができます。また、法定相続分の過半数以上の相続人が合意すれば、第三者へ賃貸するなどの管理行為もできます(民法898、252)
 なお、遺言執行者は、相続財産の管理やその他の遺言に必要なすべての行為を行う権利と義務があります(民法1012①)。そこで、そのために必要な行為を行うことができます(最判例S44.6.26)。例えば、自動車は使用していないと調子が悪くなりますから、たまに自動車に乗ってドライブに行ったり、劣化を防ぐために別の保管場所へ移動したりすることができます。
 自動車等を管理する相続人や遺言執行者は、盗難や損傷を防ぐために、自動車等を適切な駐車場や車庫で保管する必要があります。また、自動車の鍵、自動車検査証、自賠責保険証明書、取扱説明書などの重要な書類については、車内のキャビネットなどに置かずに、管理者の手元で保管すべきでしょう。

(3)保険手続

 自動車保険には、すべての所有者に対して義務付けられている「自動車損害賠償保険(自賠責保険)」と、任意で加入できる「賠償責任保険(任意保険)」の2つがあります。自動車損害賠償保障法により、自動車の所有者は自賠責保険への加入が義務づけられており、罰則規定が存在します(自動車損害賠償保障法第5、86の3)。
 一方、任意保険は、実際の賠償額が自賠責保険の補償範囲を超える場合に、その超過分の支払いを目的として自主的に加入する保険です。
 自動車等を管理する相続人または遺言執行者は、被相続人がどの種類の保険に加入していたかを確認し、自動車等を引き続き使用する場合は、保険の有効期限が切れる前に自動車等と保険の名義変更手続きを行います。

(4)運行供用者責任

 自動車損害賠償保障法第3条には、「運行供用者責任」が定められています。運行供用者責任の「運行供用者」について、判例は、「自動車の使用について支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者」と定義しています(最判S43.9.24)。そして、自動車に対する「運行支配」や「運行利益」を持つ者が「運行供用者」に当たると解され、「運行支配」には事実上の支配や間接的な支配を含む幅広い概念が含まれると解されています。
 そのため、相続人および遺言執行者は、遺産に属する自動車等の管理権を有することから、事実上の「運行支配」と「運行利益」を有すると解される余地があります。したがって、相続人または遺言執行者が自動車等を管理している間に、自動車等が盗難に遭ったり、人身事故が発生した場合、相続人または遺言執行者は損害賠償責任を負う可能性があります。
 以上のことから、できる限り速やかに自動車等の管理権を放棄すること(遺産分割協議により相続人への名義変更手続き、受遣者への名義変更手続き、または第三者への譲渡など)が望ましいでしょう。

(5)廃車手続

 経年劣化、故障、損傷がある自動車について、換価価値が低く、使用継続が難しい場合、相続人、遺言執行者、または相続財産清算人などは、自動車税(毎年4月1日現在の登録名義人に課税されます)、保険料、保管料などの負担を回避するために、廃車手続きを検討することになります。
 さらに、自動車等が所在不明で回収が難しい場合、相続人や遺言執行者は、前述した「運行供用者責任」を回避するためにも廃車手続きを検討すべきです。この場合には、警察に盗難届や遺失届を提出し、警察から受理証明を受けた上で、運輸支局に申請を行うことによって廃車手続きが可能です。
 なお、相続財産清算人の場合は、管理中の相続財産の中から自動車等の放棄ができるかについて、家庭裁判所と協議をすることになります。
 廃車手続きには、次の2つの方法があります。1つは「一時抹消登録」と呼ばれ、自動車等の車籍を一時的に抹消して利用を停止する手続きです(道路運送車両法第16条)。もう一つは「永久抹消登録」と呼ばれ、自動車等を業者に引き渡して解体処分をする、あるいは、将来的に利用しないために収納庫や展示物として再利用する場合などに行う手続きです(道路運送車両法第15条)。
 一時抹消登録の場合には、次の書類が必要となります。
①自動車検査証
②戸籍謄本等
③ナンバープレート(取り外したもの)
④相続人全員の印鑑証明書・実印(または遺産分割協議書と代表相続人の印鑑証明書・実印)
 永久抹消登録の場合は、一時抹消登録とほぼ同じ書類が必要ですが、④の相続人全員の印鑑証明書・実印までは不要で、申請を行う相続人1名のみの印鑑証明書・実印で足りるとされています。

(6)自動車等の評価方法

 自動車やバイクの財産的価値を評価する簡易な方法として、専門業者のウェブサイトで提供されている簡易査定を利用するか、同様の条件の中古車やバイクの買取価格や販売価格を参考にしたりすることがあります。
 しかし、通常は専門業者(中古車業者やディーラーなど)に査定を依頼することが一般的です。
 専門業者は、経済産業省と国士交通省の指導の下に設立された一般財団法人日本自動車査定協会(JAAI)の中古自動車査定制度に基づき、査定価格を算出します。
 なお、オートガイド社が毎月発行するオートガイド自動車価格月報(通称「レッドブック」)には、自動車の価格が年式、車種、型式別に分類されており、下取価格、卸価格、小売価格の3つに分けて掲載されているため、参考になります。
 バイクの場合、一般的には中古バイク業者に査定を依頼します。なお、一般社団法人日本二輪車普及安全協会は、特定の講習を受講し、品質評価者(査定士)として認定された自動車公正取引協議会会員販売店のスタッフが、統一された品質評価基準に基づいて車両を評価し、その結果をユーザーにわかりやすく説明する制度を普及・推奨しています。したがって、品質評価者(査定士)による査定を行う業者に査定を依頼することが望ましいでしょう。
 船舶についても、船舶の買取専門業者が存在し、出張査定を依頼することができます。専門業者のウェブサイトには、船舶の買取実績が掲載されていることがあり、参考になります。
 航空機については、航空機の売買仲介を行う専門業者や、航空機の資産価値を査定する専門業者が鑑定書や査定書を提供します。専門業者のウェブサイトには、機種ごとの取引価格のデータベースなどが掲載されていることがあり、参考にすることができます。

2 自動車、バイク、船舶、航空機の相続手続き(名義変更)

名義変更

(1)自動車等の承継と対抗要件

 普通自動車、船舶等については、一般的な動産とは異なり、第三者対抗要件が自動車登録ファイル等への「登録」とされています。
 普通自動車、船舶等については、自動車登録ファイル等への登録(車や船の住民票みたいなものです)をしないと運行(ないし「運航」)の用に供することができず、その所有権の得喪を第三者に対抗することができません(道路運送車両法4、5①、小型船舶登録法3、4、航空法3~5等参照)。

※対抗要件とは「食うか食われるか」の関係のことをいいます。対抗要件は二重売買の場合に特に問題となります。例えば、AがBに車を売ったがBは自動車登録ファイルに登録をしていなかったとします。そして、AがCにも車を売って、Cが自分こそがこの車の所有者だと自動車登録ファイルに登録したとします。この場合、車の所有者はCで決まりです。自動車登録ファイルに登録をしていなかったAが悪いのです。

 軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車は、登録制度は存在するものの、「登録」は第三者対抗要件とされておらず、一般的な動産と同様に、「引渡し」(実際に相手方に渡すこと)が第三者対抗要件となります(道路運送車両法4、5①、民178)。
 そこで、相続人又は遣言執行者は、名義変更を行うために、普通自動車の場合は運輸支局、軽自動車の場合は軽自動車検査協会の登録事務所、バイク(自動二輪)の場合は運輸支局、原動機付自転車の場合は市区町村役場において登録・名義変更手続を行います。
 船舶の場合は船舶の大きさに応じて、地方運輸局又は日本小型船舶検査機構(JCI)において登録・名義変更手続を行います。
 航空機の場合は、相続による所有権者変更の事実が生じた日から15日以内に、相続人は、①移転登録申請書、②委任状、③譲渡証、④所有権確認書、⑤定置場の承諾書・自認書、⑥誓約書等を国土交通省に提出して、登録・名義変更手続を行います。

(2)自動車の特定相続人への名義変更手続

 共同相続した被相続人名義の自動車等につき、特定の相続人に名義変更する場合は、原則として①相続人全員と新名義人が共同で申請しますが、自動車の価格が100万円以下の場合は、②遺産分割協議により自動車等を取得した新名義人が単独申請できる場合があります。
 普通自動車の場合は、名義変更に当たり、自動車検査証、戸籍謄本(全部事項証明書)、車庫証明(おおむね1か月以内のもの)のほか、①では相続人全員の印鑑証明書、相続人全員の実印押印、相続人全員から新名義人への讓渡証明書等が必要です。②では遺産分割協議書(相続人全員が実印で押印したもの)又は「遺産分割協議成立申立言」(相続する自動車の価格が100万円以下であることを確認できる査定証又は査定価格であることを確認できる資料の写し等を添付した場合に限り使用が認められる書式であり、新名義人である相続人のみの印鑑証明書、実印で足りるもの)、新名義人の印鑑証明書、実印押印等が必要です(道路運送車両法13、67、自動車登録令14~18、国土交通省運輸局ホームページ参照)。

(3)第三者への名義変更手続

 相続人が、共同相続した自動車等を、換価のため、第三者に譲渡して名義変更する場合は、①共同相続人全員と新名義人が共同申請する場合と、②遺産分割協議により代表相続人となった者と新名義人が共同申請する場合があります。普通自動車の場合は、名義変更に当たり、自動車検査証、戸籍謄本(全部事項証明書)、車庫証明(概ね1か月以内のもの)のほか、①では相続人全員の印鑑証明書、相続人全員の実印押印、相続人全員から新名義人への譲渡証明書等が必要です。②では遺産分割協議書(相続人全員が実印で押印したもの)、代表相続人の印鑑証明書、実印押印、新名義人の印鑑証明書、実印押印等が必要となります。
 遺言執行者が受遣者に名義変更し、又は清算型遺言執行の場合に換価処分するために第三者(専門業者等)に名義変更する場合は、遺言執行者と受遣者又は第三者との共同申請により、名義変更手続を行うことになります。
 普通自動車の場合は、名義変更に当たり、自動車検査証、遺言書、車庫証明(概ね1か月以内のもの)、遺言執行者から受遣者又は第三者への譲渡証明書、遺言執行者の印鑑証明書、実印、受遣者又は第三者の印鑑証明書、実印等が必要となります。

(4)船舶の名義変更

 共同相続人が第三者に船舶を譲渡する場合は、登録名義の変更と船舶検査証言の所有者の書換手続きは、船舶を購入した買主が行います。その際、譲渡人(売主)が作成し実印で押印した譲渡証明書、譲渡人の印鑑証明書、船舶検査証書、船舶検査手帳が必要ですので、これらの書類を譲受人(買主)に提供します。

(5)航空機の名義変更

 共同相続人が第三者に航空機を譲渡する場合は、新所有者は、所有者変更の事実が生じた日から15日以内に、移転登録申請書、委任状、譲渡証、所有権確認書、定置場の承諾書・自認書、誓約書などを国土交通省に提出して、登録・名義変更手続きを行います。

おわりに

 いかかでしたでしょうか? 自動車、バイク、船舶、航空機の相続(名義変更)手続きは、慣れていない方がされるととても大変です。もしご質問やお手伝いが必要な場合は、岡山の司法書士れんげ法務事務所にお気軽にご相談ください。

※参考書籍
「相続財産 管理・承継の実務/新日本法規/編集 相続財産管理・承継実務研究会」

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