はじめに
相続放棄をしたからといって、故人に関するすべての物が引き継げなくなる訳ではなく、形見と祭祀(さいし)財産、遺体・遺骨、墓地は引き継ぐことができます。
1.形見
形見であれば、相続放棄をした相続人でも「形見分け」という形で受け取ることができます。「形見分け」とは、法律上の規定はありませんが、財産的価値がないか、財産的価値が僅かな動産については、相続放棄の対象とせずに、相続人や親族、友人、知人等の関係者に分与して、処分を行うものです。「遺品整理」、「遺品引取り」と称されることもあります。
なお、動産とは、不動産以外の物です。衣類、服飾品、雑貨又は小物などをイメージしてください。
一般的には、衣類、服飾品、雑貨又は小物など、財産的価値がないか僅少な物が形見分けの対象となると考えられています。裁判例では、一般的財産価値があるか否かを重要な判断基準としています(東京高決昭37.7.19、東高時報13.7.117)。もっとも、一般的財産価値の有無は、処分時における社会情勢や経済状況、さらには動産の種類や状態によって異なる可能性があるため、注意が必要です。
また、裁判例では、形見分けの対象となる動産かどうかについては、当該動産に一般的財産価値があるか否かだけでなく、当該動産の種類や量、当該動産の額が相続財産の全体に占める割合、故人や相続人の経済状況、形見分けの趣旨などの総合判断によって決していると解せられています(東京地判平12.3.21判夕1054.255参照)。
以上のように、ある動産が形見分けの対象となるものか、あるいは相続財産に含まれるかの判断を巡っては困難な問題を生じる場合もあるので、まずは、リサイクル業者、古物業者、書画骨とう業者等の専門業者の査定・評価・鑑定によって、各動産の財産的価値を調査することが重要です。専門業者において、買取り、すなわち現金への換価が可能であるか否かが、相続放棄の対象となった財産とすべきか、形見分けの対象とするかを判別するための1つの目安となるでしょう。
参考までに、形見分けの判断基準となりそうな裁判例を掲載しておきます。
・交換価値を失う程度に着古した衣類について、一般的財産価値のない物の処分であることを理由として、相続財産の処分による単純承認に該当しないと判断された事例(東京高決昭37.7.19、東高時報13.7.117)。
・相続人が、故人のスーツ、毛皮、コート、靴、絨毯等、一定の財産的価値を有する遺品のほとんどすべてを自宅に持ち帰った行為について、持ち帰った遺品の範囲と量からすると、客観的にみて、いわゆる形見分けの範囲を超えるものといわざるを得ないこと、法定単純承認に該当するか否かの判断に当たっては故人の債権者等に損害を与えるおそれがあるか否かが重要であり、遺族の了解の存在は判断に影響しないなどとして、被控訴人(被告)である相続人の遺品持ち帰り行為が相続財産の隠匿及び単純承認該当すると判断された事例(東京地判平12.3.21判夕1054.255
・衣類であっても、一般的財産価値を有するものを他人に贈与したときは、民法921条の1号本文の「処分」に該当し、単純承認に当たるとされた事例(大判昭3.7.3新聞2881.6)
・相当多額にあった相続財産の中から、背広上下、冬のオーバー、スプリングコート、位牌を持ち帰り、時計、椅子2脚の送付を受けたことは、民法921条1号本文の「処分」に当たらないとされた事例(山口地徳山支判昭40.5.13判夕204.191)。
2.祭祀財産
祭祀(さいし)財産であれば、相続放棄をした相続人でも引き継ぐことができます。祭祀財産とは、祖先を祀るために必要な財産のことで、民法897条1項には、系譜、祭具、墳墓が挙げられています。なお、祭祀とは、祖先や神々を祀(まつ)ることです。
「系譜」とは、先祖代々の系統を表すものであり、家系図などのことです。
「祭具」とは、十字架、位牌、仏像、仏壇、神棚などの礼拝や祭祀に使用されるものをいいます。
「墳墓」とは、墓石や墓碑、土葬の場合の棺桶など、遺体や遺骨を葬っている設備のことをいいます。
祭祀財産は、相続財産には含まれず、祭祀を主宰すべき者が承継するものとされます(民897①)。よって、相続放棄をした相続人が祭祀を主宰すべき者であれば、祭祀財産を引き継ぐことができます。
なお、祭祀を主宰すべき者のことを「祭祀主宰者(さいししゅさいしゃ)」といいます。
祭祀主宰者は、次の①から③までの順序で定めることになります。
①故人が生前に指定、又は遺言によって指定
②故人の指定がないときは、地域の慣習によって決定
③地域の慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が決定
②の慣習ですが、裁判において明確な慣習が認定された例は少なく、例えば東京都内において「兄弟間では最年長者が祭祀を承継するとの慣習」、「個人事業や同族企業などの個人的色彩の強い事業の事業者が亡くなった場合には、亡くなった者の事業を承継する者があれば、その者が祭祀承継者となる」という慣習はいずれも否定されています(東京家事審平12.1.24家月52.6.59)。
③の家庭裁判所が決定する際の判断基準については、東京高裁平成18年4月19日決定(判夕方1239.289)は、「承継候補者と故人との間の身分関係や事実上の生活関係、承継候補者と祭具等との間の場所的関係、祭具等の取得の目的や管理の経緯、承継候補者の祭祀主宰の意思や能力、その他一切の事情(例えば利害関係人全員の生活状況及び意見等)を総合して判断すべきであるが、祖先の祭祀はもはや義務ではなく、死者に対する慕情、愛情、感謝の気持ちといった心情により行われるものであるから、故人と緊密な生活関係・親和関係にあって、被相続人に対し上記のような心情を最も強く持ち、他方、故人から見れば、同人が生存していたのであれば、おそらく指定したであろう者をその承継者と定めるのが相当である」と判事しています。
要約すると、この裁判例は、次のように言っています。
①祭祀の承継において、承継候補者と故人の関係や感情、能力、生活状況、祭具の取得などが考慮されるべき
②祭祀は義務ではなく感情によって行われ、緊密な関係がある候補者が選ばれるべき
③故人が生きていたら選ぶであろう承継者が適切である
3.遺体・遺骨
遺体と遺骨は相続放棄の対象となった財産に含まれず、相続放棄をした相続人でも引き継ぐことができます。遺体と遺骨も「2.祭祀財産」で説明した祭祀主宰者が引き継ぐことになります。
4.墓地
「墳墓」とは、墓石や墓碑、土葬の場合の棺桶など、遺体や遺骨を葬っている設備のことをいいます。「墓地」は墳墓を所有するための敷地を指します。
墳墓と密接不可分の範囲内の墓地、墓地使用権、墳墓に埋葬済みの遺骨等は相続放棄の対象となった財産に含まれず、「2.祭祀財産」で説明した祭祀財産となり、祭祀主宰者が引き継ぐことになります。
一方、墳墓と密接不可分の範囲内にない墓地は、相続放棄の対象となった財産に含まれます。例えば、登記簿上の地目が墓地となってはいるが、実際は墓地として使われていないような土地です。そのような土地は相続放棄をしたことにより権利を失ってしまったので、相続放棄をした相続人が引き継ぐことはできません。
終わりに
いかがでしたでしょうか。相続放棄をしたとしても、故人に関するすべての物が引き継げなくなる訳ではないのです。司法書士に助言を得ながら安心して相続放棄のお手続きを進めて行きましょう。
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