はじめに
先日、くらしき健康福祉プラザで遺言書に関する講演会を行いましたが、講演会の後に、「父が作成した遺言書が2通出てきたのですが、どうしたら良いでしょうか?」という相談を受けました。そこで、このページでは、複数の遺言書が見つかった場合の優劣関係についてご説明します。また、遺言が無効となる場合についてもご説明します。
1.後遺言優先の原則
遺言は、遺言者の最終的な意志を反映する重要な文書です。異なる日付で複数の遺言が存在する場合、一般的には最新の遺言が優先されます。これを「後遺言優先の原則」と呼びます。
法律的には、遺言の形式(公正証書や自筆証書など)による優劣は存在しません。たとえば、初めの遺言が公正証書であり、次の遺言が自筆証書であっても、後者が優先されます。
しかし、「後遺言優先の原則」が常に前の遺言を無効にするわけではありません。前後の遺言が関連しない内容を定めている場合や、互いに矛盾しない内容を含む場合、両遺言は共に有効です。一方、前後の遺言が内容で抵触する場合は、抵触する部分に関して後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなされます(民1023Ⅰ)。
「抵触」とは、前の遺言の内容が後の遺言の実現を妨げるほど矛盾している状態を指します。ただし、これは遺言者の最終意思を解釈する過程で考慮されます。判例では、遺言と生前行為との抵触(民1023Ⅱ)が問題となった事案において、「単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含するものと解するのが相当である」と判示しています(最判昭56. 11.13判時1024.51)。
これを分かりやすく要約すると、「後の遺言書が前の遺言書の内容を実行不可能にするだけでなく、全体の状況を見て後の遺言書で前の遺言書を撤回する意図を持っている場合、後の遺言書を優先する。」ということです。
例えば、一つの遺言で特定の人が未成年後見人に指名され、別の遺言で別の人が同じ役割に指名された場合、法的には両者が後見人になる可能性があります。しかし、遺言者の意思が一人の後見人を指名することにあった場合、初めの遺言は完全に無効になる可能性があります。
また、同じ日付の複数の遺言が見つかった場合、事実上後に作成された遺言が優先されると考えられています。
2.遺言の撤回
遺言は、遺言者が法定の手続きに従っていつでも全体または一部を取り消すことが可能です(民法1022)。これにより、複数の遺言が存在する場合、新しい遺言が以前のものを無効にすることがあります。遺言者は遺言の一部を撤回することも可能で、その場合、撤回されない部分は有効となります。
しかし、重要なのは遺言の撤回が「遺言の方式」に沿って行われる必要があるという点です。もし新しい遺言が正式な形式に則っていない場合、その撤回は無効となり、古い遺言が有効のままとなります。
さらに、民法1022条から1024条に基づく撤回は、特定の条件(錯誤、詐欺、強迫など)を除き、一度行われると撤回自体を取り消すことはできません(民法1025)。例えば、第1の遺言を第2の遺言で撤回し、その後第3の遺言で第2の遺言を撤回した場合でも、遺言者が第1の遺言を復活させたいという明確な意思がある場合に限り、第1の遺言が有効とされることがあります(最判平9 .11.13判時1621.92)。
3.遺言が無効となる場合
遺言が無効と判断されるケースはいくつかあります。主に次のような状況が考えられます。
(1)形式的要件の不備
公正証書遺言は通常、法定の要件を満たしているものとされますが、自筆証書遺言の場合、しばしば法定要件を満たしていない例が見られます。遺言者は遺言の全文、日付、氏名を自筆で記し、印鑑を押さなければなりません(民法968Ⅰ)。日付が不完全であったり、押印が欠けていたり、全文が自筆でない場合(例えばパソコンで作成された遺言など)は、その遺言は無効です。ただし、平成31年1月13日以降は、自筆証書遺言に相続財産目録を添付する場合、目録はパソコンで作成可能で、遺言者は各ページに署名と印を押す必要があります(民法968Ⅱ)。
日付に関しては、年月日全てを記載する必要があります(大判大7 .4.18民録24.722)。「令和○年○月吉日」のような不特定な記載をすると、遺言は無効となります(最判昭54.5 .31判時930.64)。
(2)遺言能力の欠如
遺言者は遺言をする際、遺言能力を有していなければなりません(民法963)。15歳未満の者(民法961条)や遺言能力を欠いている者が遺言を行った場合、その遺言は無効です。例えば、認知症の人が作成した遺言や脅されて書いた遺言などは無効となります。
おわりに
このページでご紹介した内容は、複数の遺言書がある場合の対処法や、遺言が無効となる可能性についての基本的なガイドラインです。遺言書に関連するこれらの問題は、法的な側面が強く、専門的な知識が不可欠です。ですので、ご不明な点や具体的な対応方法については、ぜひ司法書士に相談してみてください。
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