5.相続登記を自分でするか、それとも司法書士に頼むか
法務省が相続登記の手続き等について、「登記申請手続のご案内」というパンフレットを発行しています。それを見ながら、自分でチャレンジしてみるのも1つの方法です。
【参考】
「法務省の登記記申請手続のご案内」
ただし、専門家の立場からはオススメできません。自分で相続登記をするということは、病気をした時に医者に頼らず自分で病気を治すようなものです。
相続登記を自分でするか、それとも司法書士に頼むかを決めるにあたっては、次の点を参考にして頂ければと思います。
こちらの記事も非常に参考になると思います。
【参考】
「相続登記を司法書士に依頼するメリット」
「行政書士が相続登記の前提となる遺産分割協議書を作成する際の注意点」
(1)時間を犠牲にできるか
仕事に限らずスポーツもそうですが、プロの作業は簡単に見えてしまうことがあります。「この程度なら簡単だ♪」と思い、いざ自分でやってみると、その手間と複雑さに後悔した経験などはないでしょうか。ボクシングの世界では、やんちゃな若者が鍛錬を積んだプロボクサーに挑んで返り討ちにされるというのが、よくある話です。
相続登記は、戸籍などの必要書類を収集し、遺産分割協議書を作成し、登記申請書を作成し提出するまでに、かなりの時間と手間を要します。完成した書類だけを見ると簡単そうに見えますが、その簡単な書類を自分で作成できるようになるまでに、かなりの時間を掛けて勉強しなければなりません。
その時間を犠牲にできるかどうかです。日当が1日1万円と考えると、勉強期間と書類の収集・作成に10日以上掛かるのであれば、司法書士に依頼した方が良いでしょう。後述する家督相続を勉強しようと思えば、更に時間が掛かります。
(2)失敗した時のリスク
ご自分で相続登記をされる方は、その内容が不十分であることが多いです。良くある失敗が次の3点です。
ア 相続登記の漏れ
自分で相続登記をすると、相続登記が漏れていることが多いです。例えば、固定資産税の納税通知書に記載されている不動産が、その人が所有している不動産の全部ではありません。そうだと勘違いして相続登記を申請すると、相続登記漏れが発生してしまいます。
司法書士が相続登記をする場合には、名寄帳というその人が所有している不動産の一覧表を市役所で取得するのですが、その名寄帳にもその人が所有している不動産の全部が記載されている訳ではありません。名寄帳は、固定資産税を課税するために市区町村が作成しているものですから、固定資産税を課税する必要がない不動産は、そもそも名寄帳に記載しない市区町村があります。
以上のとおり、ご自分で相続登記をすると、相続登記が漏れてしまう危険性があります。
イ 相続人の調査漏れ
故人が戦前の生まれや戦前に死亡している場合、1898年に制定された民法の条文に基づいて相続登記をしなければなりません。戦前はいわゆる家制度の時代でした。家制度とは、江戸時代に発達した武士階級の家父長制的な家族制度を基にして、1898年(明治31年)に制定された日本の家族制度のことです。この制度は、先代の戸主が亡くなった場合などに、その家の財産を一人で相続する「家督相続(かとくそうぞく)」が大きな特徴とされています。ちなみに、戸主とは、家族や家を統率し、家の代表者として権限を持つ家族の中で最も地位の高い人です。家制度においては、戸主が家族の生計を取り仕切り、家族の行動など、家族内での権限を握ることが多かったです。
この家督相続はかなり難解な制度です。例えば、戸主が亡くなったら、戸主の長男が最優先で相続人とされていました。しかし、戸主に子どもがいなかったら、誰が相続人となるか、親族たちで選定しなければなりませんでした。ところが、その選定がされず、終戦を迎えた場合、戸主の死亡の時に遡って、終戦後の法律を適用して相続人を確定することになります。
その他にも沢山の論点があります。戸主以外が亡くなったら? 隠居(※1)したらどうなる? 絶家(※2)の場合は? これらの複雑な制度を専門家以外の方が理解しようとすると、かなり時間が掛かります。それに、中途半端な知識で相続人調査をすると、相続人が漏れていることがあります。そして、相続人が1人でも欠けていたら、遺産分割協議は無効となり、相続登記をすることができなくなってしまいます。
頑張って勉強して相続人を確定したとしても、今度は、その相続人で相続登記ができるかを検討しなければなりません。次は不動産登記法の勉強です。とても時間が掛かります。
※1 戦前は生前に相続が可能でした。これを隠居といいます。
※2 相続人がいなくて、家系が断絶することです。戦前は絶家と呼んでいました。
ウ 遺産分割協議書の論点落とし
相続登記をするには、相続人間で遺産分割協議書を作成しなければなりません。遺産分割協議書には、不動産だけ遺産分割をするのか、預貯金はどうするのか、後日新たな財産が判明したらどうするのか、などなど、漏れのないように記載する必要があります。
ご自分で遺産分割協議書を作成すると、記載すべき項目に漏れがあり、後々、相続人間でトラブルになってしまう危険性があります。
(3)相続登記をしてはいけない不動産を見抜けるか
例えば、地元の町内会や集落で購入した集会所や山林、ごみステーションの敷地は、相続登記をしてはいけません。法律上、不動産を町内会や集落名義にすることはできないので、町内会や集落の代表者名義とするか、町内会や集落の全員の名義としなければなりません。つまり、故人の名義になっていたとしても、本当は故人の不動産ではない可能性があるのです。それにもかかわらず相続登記をしてしまうと、相続登記を取り消して、他の町内会や集落の人に名義変更をしなければならなくなります。
相続登記をしてはいけない不動産を見抜けず相続登記をしてしまうと、余計な手間と費用が掛かり、安物買いの銭失い(安い物は品質が劣るから、結局、高くつくという意味です。)となってまいます。
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