相続

相続登記の義務化の違反者に対する罰金(過料)について/過去の相続も義務化の対象!

はじめに

 令和6年4月から相続登記の義務化がスタートします。そもそも相続登記とは、故人名義の不動産登記簿を相続人名義に変更することをいいます。
 なお、不動産登記簿とは、不動産登記法という法律に基づいて作成されている不動産の記録簿のことです。例えるなら、不動産の住民票といったところです。国民1人1人に住民票があるのと同じように、日本の土地・建物にも、1つ1つ不動産登記簿という名の不動産の住民票があります。
 相続登記を申請しなければ、10万円以下の罰金(過料)の対象となります。令和5年9月12日に、どのような場合に過料が科されるのかの通達(令和5年9月12日法務省民二第927号:相続登記等の申請義務化関係)が発表されましたので、その通達に基づいて解説します。
 ちなみに、過料は行政上の義務違反に対する罰金のことで、前科が付くものではありません。過料の具体例として、各自治体の「タバコポイ捨て禁止条例」で課される過料や、転居をしたのに住民票を移転せず放置した場合の過料などがあります。いずれも犯罪ではありません。
 過料と漢字は違いますが、同じ読み方の科料があります。科料は犯罪に対する刑罰の一種で、1,000円以上1万円未満の金銭納付を命じられることをいいます(刑法第17条)。公然わいせつ罪、わいせつ物頒布等罪、暴行罪、過失傷害罪、侮辱罪などの犯罪が科料の対象です。法律家は過料と科料を区別するために「過料」は「あやまちりょう」、「科料」は「とがりょう」と読んだりします。

1.どのような場合に過料の対象となるのか?

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(1)令和6年4月1日以降に不動産を相続で取得した場合

 不動産を相続で取得し、その事実を知った日から3年以内に相続登記を行わない場合、正当な理由がなければ過料の対象となります。さらに、遺産分割を通じて不動産を取得した場合でも、同様に遺産分割の日から3年以内に登記をしなければ、正当な理由がない限り過料が適用されます。

(2)令和6年4月1日以前に不動産を相続で取得した場合

 令和9年3月31日までに相続登記を行わない場合、こちらも正当な理由がない限り過料の対象となります。遺産分割によって不動産を取得した場合も同様で、遺産分割の日から3年以内に登記を行わない場合、正当な理由がなければ過料が適用されることになります。過去の相続も義務化の対象という訳です。

2.過料が科される場合の流れ

ステップ

(1)申請の催告書の送付

 登記官(登記を担当している法務局の公務員)が義務違反を把握した場合、義務違反者に対して登記をするよう催告します。これは、催告書を送付することにより行われます。

(2)裁判所への通知

 催告書に記載された期限内に登記が行われない場合、登記官は裁判所に対して申請義務違反を通知します。ただし、相続人からの説明を受け、登記官が「正当な理由」があると判断した場合は、この通知を行いません。

(3)裁判所の判断と裁判

 裁判所は、(2)の通知を受け、要件に該当するか否かを判断します。過料を科すべきと判断された場合、過料を科す旨の裁判が行われます。

3.登記官は、どのようにして義務違反を把握するのか?

 登記官は、相続人が不動産の取得を知った日がいつかを把握することは容易ではありませんので、次の(1)又は(2)を端緒として、義務に違反したと認められる者があることを職務上知ったときに限り、申請の催告を行うものとしています。この「限り」というところがポイントです。申請の催告がなければ罰金を取られることはないのですが、次の(1)と(2)の場合に「限り」申請の催告を行うという通達になっています。

(1)遺言に基づく登記のケース

相続人がある不動産について遺言に基づく所有権移転登記を申請したが、同じ遺言書に他の不動産も相続させる旨が記載されている場合

 相続登記には、遺言書を添付して申請することがあります。その時に、遺言書に記載されている一部の不動産だけ相続登記を申請して、他の不動産について相続登記を申請していなかったら申請の催告書を送ると言っています。つまり、次のような場合です。


遺言書

 岡山太郎は、岡山一郎に次の不動産を相続させる。

不動産の表示
(土地)
所  在  備前市日生町寒河
地  番  1251番3
地  目  宅地
地  積  215㎡
土地は相続登記をした!

(建物)
所  在  備前市日生町寒河1251番地3
家屋番号  1251番3
種  類  居宅
構  造  木造瓦葺平家建
床面積   49.58㎡
建物は相続登記をしなかった!


(2)遺産分割に基づく登記のケース

相続人がある不動産について遺産分割に基づく相続登記を申請したが、その遺産分割協議書に他の不動産も相続する旨の記載がある場合

 相続登記には、遺産分割協議書(相続人間の合意書)を添付して申請することがあります。その時に、遺産分割協議書に記載されている一部の不動産だけ相続登記を申請して、他の不動産について相続登記を申請していなかったら申請の催告書を送ると言っています。つまり、次のような場合です。


遺産分割協議書

1.被相続人 岡山太郎 (昭和62年4月12日死亡 本籍地:岡山市北区大供一丁目1番) の相続財産につき、最終の相続人全員で協議をした結果、次の不動産については、 岡山一郎 が相続する。

不動産の表示
(土地)
所  在  備前市日生町寒河
地  番  1251番3
地  目  宅地
地  積  215㎡
土地は相続登記をした!

(建物)
所  在  備前市日生町寒河1251番地3
家屋番号  1251番3
種  類  居宅
構  造  木造瓦葺平家建
床面積   49.58㎡
建物は相続登記をしなかった!


 (1)も(2)の場合も、通常はあり得ません。相続登記を申請しようとしているまじめな人が、遺言書や遺産分割協議書に記載されている一部の不動産だけしか相続登記を申請しないことは通常ないので、実際に過料が科されるのは極限られた状況でのことになります。
 ただし、今後、相続登記の義務化が進まなければルールが変わるかもしれません。現に、土地について長期間相続登記を放置していると、登記官から法定相続人等に登記手続を直接促す制度(長期相続登記等未了土地解消作業)もスタートしています。これは、相続登記の義務化の違反者に対する罰金(過料)とは別の制度で、あくまで「相続登記をしてくださいね~」と相続人にお願いをするレベルのものです。

 ここだけの話、確かに相続登記の申請をしなければ、罰金の対象とはなってしまいます。しかし、長期相続登記等未了土地解消作業に基づき「長期間相続登記がされていないことのお知らせ(通知)」が送られてくることはあっても、上記(1)と(2)に該当しなければ、「相続登記の申請の催告書」が送られてくることはないので、実際に罰金を取られることはありません。例えば、車で駐車違反をしていたとしても、警察にバレなければ罰金は取られませんよね? 相続登記の放置は、それと似たような感じです。実際に相続登記を申請するまでは、登記官に相続登記を放置していたことがバレることはありません。その上、実際に相続登記を申請したときに、きちんと全部の不動産について相続登記を申請したらお咎めなしという、かなり優しいルールとなっています。ただし、令和8年から所有不動産記録証明制度というものがスタートし、法務局が相続登記の義務化の違反を把握するのが容易となります。今は大丈夫でも、厳しく罰金を取られる日が来るかもしれません。

4.過料の金額

反則金

 裁判所は登記官からの通知を受けた後、特定の要件に該当するかどうかを判断します。この判断の結果、必要と認められれば過料を科す裁判を行います。この過料は、10万円以下の範囲内で裁判所によって決定されます。

5.過料を回避できる正当理由

 相続登記の義務履行期間内に、以下の(1)から(5)までの事情がある場合、一般的に「正当な理由」があると認められます。また、これらに該当しなくても、個々の事例における具体的な事情によって、登記を行わない正当な理由があると判断される場合もあります。

(1)多数の相続人

相続人が極めて多く、戸籍関係書類の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要する場合

 一部の不動産について、遺言書や遺産分割協議書をきちんと作成して何世代も相続してきているが、相続登記の申請は全くしていないという場合が考えられます。

(2)遺言や遺産の範囲の争い

遺言の有効性や遺産の範囲が相続人間で争われ、相続不動産の帰属主体が不明確な場合

 遺言書に基づいて建物は相続登記を申請したが、土地については他の相続人からクレームが入って申請していないという場合が考えられます。

(3)重病やそれに準ずる事情

相続登記の義務を負う者自身が重病やそれに準ずる事情を抱えている場合

 土地だけ相続登記を申請して、建物について相続登記を申請しておらず、登記官から建物の相続登記をしろと催告をされたときに、このような状況になっているという場合が考えられます。

(4)生命・心身の危害

相続登記の義務を負う者が配偶者からの暴力等により生命や心身に危害が及ぶ恐れがあり、避難を余儀なくされている場合

 土地だけ相続登記を申請して、建物について相続登記を申請しておらず、登記官から建物の相続登記をしろと催告をされたときに、このような状況になっているという場合が考えられます。

(5)経済的困窮

相続登記の義務を負う者が経済的に困窮しており、登記申請に要する費用を負担する能力がない場合

 登記をする際には登録免許税という税金が掛かります。建物はボロボロなので1,000円の登録免許税で済んだから相続登記を申請したが、土地は広大な一等地にあるので、登録免許税が100万円掛かりとても払えないという状況が考えられます。

おわりに

 確かに、相続登記を申請しない場合は過料の対象になる可能性がありますが、実際に過料が科されるのは極限られた状況でのことです。しかしながら、相続登記の申請を怠ると、将来的にお子様の世代に問題を残す可能性があります。また、法律が変わり、過料の対象範囲が拡大することも考えられます。相続登記については、お早めに岡山の司法書士れんげ法務事務所へご相談ください。


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