相続

相続した不動産を第三者に贈与する覚書の効力

はじめに

 故人が亡くなって相続登記をしようとしていたところ、故人が生前に相続人以外の第三者と覚書を交わしていて、この覚書は有効ですか?という相談をたまに頂きます。そこで、このページでは、相続した不動産を第三者に贈与する覚書が出てきた場合の対処法についてご説明いたします。

1.覚書とは

覚書

 そもそも覚書とは、会話や取引などの内容を後で確認するために書かれる簡単な文章やメモのことを指します。
 ところが、法律の世界では、少し意味が異なります。例えば、約束された事項は、すべて契約書に書き込むのが原則ではありますが、付随的な事項や追加で変更のあった事項、あるいは確認しておきたい事項が生じた場合に、覚書という形式の文書を作成して証拠として残すことがあります。

2.不動産取引における契約の成立と記載要件

不動産売買契約書

 契約は当事者の意思表示の合致により成立します(民522Ⅰ)。例えば、コンビニのレジにジュースを持って行って、「これください」「分かりました」という会話があれば売買契約は成立します。そして、後々、言った言わないの争いを防ぐために契約書を作成するのです。
 ところが、不動産の購入は、コンビニでジュースを買うのような簡単な取引とは異なります。そのため、「この不動産を買いませんか」「買います」という会話だけで契約が成立することは、特段の事情がない限りほとんどありえません。
 不動産取引は一般に高額な取引が多く、通常は書面による契約書を締結することが一般的です。高額な取引である不動産の売買において、契約書を作成するプロセスを省略して契約の成立が認められる可能性は非常に低いと考えられています。
 裁判例もそのように考えており、不動産の売買契約書に先立つ「合意書」では契約が成立していないと判断された事例では、合意書に売買契約書として記載されうるべき事項の記載がない点が重要視されました。
 裏を返すと、合意書に売買契約書として記載されうるべき事項の記載があれば、契約は成立するのです。
 なぜなら、契約内容を決めるのは、契約書のタイトルではなく契約書の本文だからです。例えば、「賃貸借契約書」と書かれている契約書の本文が、「AはBに対し、令和5年8月29日、本件不動産を贈与する」ということが書かれていれば、それは「賃貸借契約書」ではなく「贈与契約書」です。
 したがって、たとえ覚書であっても、売買契約書や贈与契約書として記載されうるべき事項の記載があれば、契約は成立するということになります。

3.相続した不動産を第三者に贈与する覚書が出てきた場合の対処法

ヒント

 それでは、相続した不動産を第三者に贈与する覚書が出てきた場合、相続人はどのように対処すれば良いでしょうか。まず、その覚書が、(1)遺言書として有効なのか、(2)贈与契約書として有効なのかを精査する必要があります。

(1)遺言書の成立要件

 遺言書には公正証書遺言(公証役場で作成される遺言)や自筆証書遺言(手書きの遺言)など様々な方式があります。公正証書遺言であれば冊子で表紙に「公正証書遺言」との記載がされます。よって、タイトルが覚書であれば公正証書遺言ではないので、自筆証書遺言として成立していないかを検討することになります。
 自筆証書遺言が成立するための要件は、次のとおりです。
①日付があること
②氏名があること
③押印があること
④全文が自署であること
 以上です。ただし、不動産や預貯金の目録を別紙にして添付するときは、その別紙は自署でなくても構いません。その代わり、その別紙のすべてに署名と押印が必要です。なお、遺言の内容に訂正がれば、その箇所に署名と押印が必要となります。署名と押印が欠けていれば訂正は無効です。
 その他のチェックポイントは次のとおりです。
・押印は実印である必要はありません。
・押印は認印や指印でも構いません。
・押印の代わりに花押(名字を簡略な形に変形させた自署 例:梅)はダメです。
・封筒に封入、封緘する必要はありません。
・発見された覚書の本文に「A不動産を〇〇に相続させる」「自分が死んだらB不動産を〇〇に譲る」など、遺言であるという内容が記載されている必要があります。
 以上の自筆証書遺言の成立要件を満たしているのであれば、遺言書として有効なものです。そして、その不動産を譲り受けるのかどうかの判断を相手方に委ねることになります。

(2)贈与契約の成立要件

 自筆証書遺言の成立要件を満たしていないのであれば、次は、贈与契約書として有効なのかを検討することになります。前述したとおり、契約書のタイトルが「覚書」であっても、契約書の本文が贈与契約としての成立要件を満たしているのであれば、それは「贈与契約書」となります。
 贈与契約が成立するための要件は、次のとおりです。
①当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示すること
②相手方が受諾すること
 たったこれだけです。しかし、不動産という高額な財産の贈与であるので、贈与契約書として記載されうるべき事項の記載が要求されるでしょう。具体的には、次のとおりです。
①日付がある
②贈与する財産が具体的に特定されている
③贈与する相手方が具体的に特定されている
④当事者の署名がある
 以上が最低限の記載事項と考えられます。
 なお、覚書の内容が、「A不動産は〇〇に贈与する予定である」「A不動産を〇〇に贈与するが、詳細は後日定める」などとなっている場合、それは、不動産の贈与契約書に先立つ、まさに「覚書」であり、贈与契約の効力は発生していません。よって、覚書記載の不動産の所有権は相手方に移っておらず、相続人が相続すべき財産となります。遺産分割協議をするなどして、その不動産を誰が相続するかを決めることになります。

終わりに

 いかがでしたでしょうか。相続した不動産を第三者に贈与する覚書が出てきたとしても、その覚書が遺言書としても贈与契約書としても効力がないのであれば、その覚書は単なるメモです。したがって、覚書に記載された不動産は相続人が相続すべき財産であり、遺産分割協議をするなどして、その不動産を誰が相続するかを決めることになります。
 しかし、遺言書として有効なのか、それとも贈与契約書として有効なのかという判断は、専門家でなければ困難です。くれぐれも、司法書士などの専門家の助言を得た上で判断するようにしてください。

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