はじめに
故人が友人や親、兄弟姉妹などに貸していたお金も相続財産となり相続人が相続するものとなります。そこで、このページでは、貸付金(貸金債権)を相続する際のポイントや遺産分割協議書のひな型などについて説明します。
1.遺産管理者の責務
(1)貸金債権の確認
遺産を管理する者(遺言執行者や相続人など)は、金銭消費貸借契約、借用書、領収書の控え、請求書面、預金通帳、確定申告書などを収集し、貸金債権の存在を確認します。必要に応じて、相続人や債務者と面会して、債権の詳細を調査することもあります。
(2)債権の管理
貸金債権が存在することが確認できたら、その承継が完了するまで債権を管理する必要があるので、関連する書類を保管します。個々の相続人がこの書類を保管している場合には、遺産を管理する者は当該相続人に対しその書類の引渡しを求めます。
2.債権の承継と管理
(1)可分債権の自動分割
貸金債権は法律上、自動的に分割され、各相続人が相続分に応じて債権を承継します。弁済期が到来した場合、原則として各相続人が支払いを受けます。
(2)遺産分割による債権管理
もっとも、相続人全員の合意により、貸金債権を遺産分割の対象とすることが可能です。この場合、遺産を管理する者が債務者に弁済を求め、受け取った金員を管理します。
(参考)
遺産分割協議書
(単独で取得する場合)
第◯条 相続人A(昭和◯◯年◯◯月◯◯日生)は、被相続人D(平成◯◯年◯◯月◯◯日死亡)のBに対する下記の債権を取得する。
記
Dが、平成◯◯年◯◯月◯◯日、Bに対し、弁済期平成◯◯年◯◯月◯◯日、利息年◯パーセントとの約定で、◯◯万円を貸し付けたことにより、Bに対して取得した金銭消費貸借契約に基づく貸金元金の支払請求権◯◯万円(本協議成立時)、利息契約に基づく利息の支払請求権◯◯万円(本協議成立時)、及び債務不履行に基づく遅延損害金の支払請求権◯◯万円(本協議成立時)の総計金◯◯万円。
(割合的分割により取得する場合)
第◯条 相続人A(昭和◯◯年◯◯月◯◯日生)と相続人B(昭和◯◯年◯◯月◯◯日生)は、被相続人D(平成◯◯年◯◯月◯◯日死亡)のCに対する下記の債権をそれぞれ2分の1の割合により取得する。
記
(省略)
3.消滅時効の注意点
(1)時効のリスク
貸金債権は発生から10年で消滅時効にかかるため、遺産管理中に時効が成立しないよう注意が必要です。
(2)時効の猶予と更新
裁判上の請求、和解、破産手続き参加、強制執行、担保権の実行などの事由がある場合、時効の完成は猶予されます。債務者との協議や確定判決によって時効は更新され、新たな時効期間が始まります。
4. 法律上の対抗要件
(1)民法899条の2第1項
法定相続分を超える債権の承継は、共同相続人全員または遺言執行者による債務者への通知や承諾が必要です。この通知や承諾がない限り、債務者は、法定相続分を超える債務については、請求してきた相続人に対して返済する必要はありません。請求してきた相続人が本当に法定相続分を超える部分の債権を相続しているのか分からないからです。
債務者以外の第三者に対抗するためには、確定日付の証書によって通知や承諾を行うことが必要となります。確定日付の証書によって通知や承諾をしておかなければ、法定相続分を超える部分の債権について、他の相続人の滞納に基づいて税務署などが差押えをしてしまう危険性があります。
(2)民法899条の2第2項
もっとも、法定相続分を超えて債権を承継した受益相続人(遺言や遺産分割により相続財産を取得した者)が、単独で通知することでも、民法899条の2第2項に定める対抗要件を具備する旨を定めています。
なお、受益相続人が単独で通知をする場合、「遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らか」にすることが必要とされています。具体的には、債務者が、客観的に遺言や遺産分割の有無 その内容を判断できるような方法(例えば、受益相続人が遺言書の原本、遺産分割協議書等の原本を提示し、債務者の求めに応じて、債権の承継の記載部分について写しを交付する方法)をもって通知することで足りるものと考えられます。
おわりに
これまでの説明は、遺産としての貸金債権を相続する際に知っておくべき重要なポイントや手続きについてのガイドでした。相続は、感情的にも法律的にも複雑なプロセスです。債権の確認から管理、そして承継に至るまでの一連の流れは、慎重かつ緻密な対応を必要とします。
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