はじめに
相続放棄とは、故人の妻や子などの相続人が、故人の財産を相続しないという意思を表示することです。家庭裁判所に届け出ることにより行います。相続放棄により、故人の借金を含む一切の財産を相続しないことになります。
相続放棄申述書を作成する作業自体はさほど難しいものでありません。そこで、このページでは、相続放棄を司法書士に頼らず、自分でやる方法をご紹介します。
ただし、相続放棄は一発勝負でやり直しができません。相続放棄の申請が却下されたら再申請できませんし、相続放棄をした後に「やっぱり無かったことにして欲しい」とはできません。それに、相続放棄において重要なのは、相続放棄をする前とその後の段階です。
相続放棄を司法書士に依頼すると、①相続放棄をすべきか、②相続放棄以外に方法はないか、③預貯金を引き出して使っても良いか、④相続放棄をしても相続できる財産はないか、⑤相続放棄をする前にしても良い行為・ダメな行為、⑥相続放棄をしても回避できない責任に関する対処法など、お客様の具体的な状況をヒアリングし、完全な相続放棄を支援してもらえます。
それでも自分で相続放棄をしてみたいという方に対して、できるだけ丁寧に解説しています。ぜひ最後までご覧ください。
1.戸籍等の収集
相続放棄をするには、相続放棄をする人が被相続人(故人)の相続人であることを証明する戸籍等が必要になります。また、相続放棄をする人が本当に本人であるかどうかを確認する必要があるため、印鑑証明書の添付が必要となります。具体的には、次の書類を収集してください。
・被相続人の戸籍謄本
・被相続人の本籍が記載された戸籍の附票又は住民票
・相続放棄をする人の戸籍抄本
・相続放棄をする人の本籍が記載された戸籍の附票又は住民票
・相続放棄をする人の印鑑証明書
・相続放棄をする人の実印
・切手(申述人1人につき470円(内訳:84円5枚、10円5枚))
⇒相続放棄の結果などの書類を裁判所が送るのに必要となります。切手の代わりにレターパックでも対応してくれます。
※謄本(とうほん)は、戸籍内の全員について記録されたものです。抄本(しょうほん)は、戸籍のうち指定された人について記録されたものです。よく分からなければ、謄本を取得してください。
※戸籍の附票とは、住所履歴が記載されたものです。
※今まで戸籍等は本籍地でしか取得できませんでしたが、令和6年3月から最寄りの市役所で戸籍が取得できるように法改正がされました。例えば、東京に本籍があっても岡山市役所で戸籍等が取得できます。
※被相続人が兄弟姉妹の場合には、被相続人の父母の出生から死亡までの戸籍謄本が必要となります。被相続人の父母は第2順位の相続人で、生きていれば、兄弟姉妹に優先して相続権があるからです。
【関連知識】
「相続人の順位と割合を具体例で分かりやすく徹底解説!」
2.相続放棄申述書等の作成
(1)相続放棄申述書
相続放棄申述書を作成します。見本は次のとおりです。
※手書きでなくても構いません。
※父が亡くなった場合で、母が未成年の子に代わって相続放棄を行う際、もしも母自身が相続放棄をされないのであれば、利益相反行為となります。したがって、未成年の子のために特別代理人を選任する必要があります。ただし、母自身も同時に相続放棄をするのであれば、特別代理人の選任は必要ありません。
【関連知識】
「親が未成年の子と一緒に相続する場合」
(2)上申書(事情説明書)
相続の放棄ができる期間は、「故人が亡くなってから3か月以内」です。条文上の正確な表現は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」です(民915Ⅰ)。そこで、故人が亡くなってから3か月経過した後の相続放棄については、上申書(事情説明書)の添付が必要となります。サンプルは次のとおりです。
【サンプル①】
上申書(事情説明書)
住所 岡山市北区大供一丁目1番1号
氏名 岡山太郎 ㊞
私がこの度、被相続人である母の岡山母美の相続放棄の申述をするにあたって、相続放棄申述書の「相続の開始を知った日」について、以下のとおり申し述べます。
1.平成31年4月22日、私の母が亡くなりました。
2.生まれてすぐに、私は母の兄弟である叔父に預けられました。母とは別々に暮らし、 時折会うことはありましたが、私は叔父からその人が叔母だと聞かされていたので、母だとは知りませんでした。
3.18歳の時に、私が叔母だと思っていたその人が実は母であることを知りました。しかし、私は21歳で結婚し姫路に移住し、離婚後は広島に転出したため、大阪にいた母とはほとんど接点がありませんでした。
4.19年ほど前、母の夫が亡くなりました。戸籍上、私は母の夫の養子となっており、相続権がありましたが、母とその実子たちとの間で相続放棄を巡るトラブルがあり、それ以来母とは完全に疎遠となりました。
5.令和5年になり、同年6月9日、岡山市から固定資産税の納税通知書が私宛に届きました。通知書には、「岡山母美様が所有する固定資産に関して、岡山次郎様を代表として納税通知書を送付していますが、共有者であるあなたにも送付します」との文書が同封されていました。なぜ納税通知書が届いたのか不思議に思いましたが、自分には関係ないと考え放置していました。
6.10月になり、知人に話をしたところ、岡山市役所に問い合わせるよう勧められました。10月11日に税務課に連絡し、〇〇さんという方が対応しました。彼女は納税通知書を送った理由については話せないが、母の戸籍を取得してみるようにとアドバイスしました。
7.10月23日に戸籍が届き、その中には平成31年4月22日に母が亡くなったことが記載されていました。これにより、私は初めて母の死を知りました。
上記の事情により、私にとっての相続放棄の熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、母の死を戸籍で確認した日である令和5年10月23日です。
このような次第ですから、私は、被相続人岡山母美の相続を放棄することを申述いたします。
【サンプル②】
上申書(事情説明書)
住所 岡山市北区大供一丁目1番1号
氏名 岡山太郎 ㊞
私がこの度、被相続人である父の岡山父男の相続放棄の申述をするにあたって、相続放棄申述書の「相続の開始を知った日」について、以下のとおり申し述べます。
令和3年1月16日ころから19日までの間に父が亡くなりました。父の収入は年金のみで、僅かばかりの預貯金は葬儀費用にあてました。なお、生前に住んでいた自宅は借家だと聞いていました。
そこで、父には相続すべき財産は何も無いと判断したので、相続放棄をする必要があるとは全く考えていませんでした。
ところが、令和5年〇月〇日、父の自宅の遺品整理をしていたところ、父宛ての固定資産税の納税通知書を発見しました。どうしたら良いか分からなかったため、司法書士に相談したところ、司法書士に父の財産調査を依頼することになりました。
令和5年〇年〇日、上記の司法書士の事務所で父の財産調査の結果を確認したところ、借家だと聞いていた自宅は私の祖父名義の未登記の建物で、それを父が相続していたということが分かりました。
上記の事情により、私にとっての相続放棄の熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、上記の司法書士の事務所で父の財産調査の結果を確認した日である、令和5年〇月〇日です。
このような次第ですから、私は、被相続人岡山父男の相続を放棄することを申述いたします。
(3)原本返却申請書
相続放棄に添付した戸籍等は、相続放棄申述書と併せて原本返却申請書を提出すれば、原本還付をしてくれます。なお、原本のコピーの添付が必要で、コピーには、「原本に相違ありません。 岡山太郎 ㊞」と書いてハンコを押します。
3.相続放棄申述書等の提出
次の書類を家庭裁判所に持参するか、郵送で提出します。なお、提出先は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。 [ 相続放棄 管轄 ] で検索すると、裁判所のホームページがヒットします。
【提出書類】
▢ 相続放棄申述書
▢ 上申書(事情説明書)
▢ 原本返却申請書
※返却して欲しい書類のコピーを添付すること。
▢ 被相続人の戸籍謄本
▢ 被相続人の本籍が記載された戸籍の附票又は住民票
▢ 相続放棄をする人の戸籍抄本
▢ 相続放棄をする人の本籍が記載された戸籍の附票又は住民票
▢ 相続放棄をする人の印鑑証明書
▢ 切手(申述人1人につき470円(内訳:84円5枚、10円5枚))
4.照会書の送付及び裁判所での面談
2で作成した相続放棄申述書の内容に不備があったり、3で作成した上申書(事情説明書)の内容に疑義があれば、裁判所から照会書が送付されたり、裁判所での面談が必要となります。
本当に本人が申請したかどうかを確認するためにも照会書は送られます。実印で押印して印鑑証明書を添付すれば、照会書の送付は省略されることが多いです。ただし、印鑑証明書を添付していたとしても、故人が亡くなってから3カ月経過後の相続放棄は、一律、照会書が送付される運用となっています。
なお、照会書の見本は次のとおりです。相続放棄申述書と同じ内容を記載し、相続放棄申述書に押印したのと同じ印鑑で押印してください。
【故人が亡くなってから3カ月以内の照会書】
【故人が亡くなってから3カ月経過後の照会書】
裁判所での面談が必要となる場合は、裁判所が上申書(事情説明書)の内容を疑っている時や、内容についてもっと詳しく知りたいとき行われます。
裁判所に聞かれたことを正直に答えてください。なお、面談のポイントを挙げるとするならば、相続の承認にあたる行為をしてしまったという回答を避けることです。詳しくは、下記をご覧ください。
【関連知識】
「相続放棄でやってはいけないこと」
面談が終われば、その場で受理を伝えてくれ、後日、「相続放棄の申述受理通知書」を送ってくれたりします。
裁判所に呼び出されたからと言って、相続放棄の申述が不受理になる訳ではありませんので、あまりご心配なさらないでください。家庭裁判所は、「却下すべきことが明らかな場合以外は、相続放棄の申述を受理すべきである」との裁判例があり、相続放棄の申述を広く受理する運用を行っています。
5.相続放棄の申述受理通知書
相続放棄の申述が受理されれば、裁判所から「相続放棄申述の受理通知書」が送られてきます。提出した書類に不備が無ければ、約1週間くらいで届きます。これを債権者に提示するなどして、相続放棄をしたことを証明してください。なお、裁判所は相続放棄に関する情報を30年間保管しています。30年を過ぎれば、「相続放棄申述の受理通知書」以外に相続放棄をしたことを証明するものが無くなりますので、大切に保管してください。
例えば、相続放棄をしてから30年が経過した後に、市役所や近隣の住民から被相続人名義の家屋の解体を求められることがあります。この時、もし「相続放棄申述の受理通知書」を失くしていたら、相続放棄したことを証明する手段がなくなります。その結果、相続放棄したにも関わらず、家屋の解体費用を負担する羽目になる可能性があります。
おわりに
いかがでしたでしょうか? 相続放棄は簡単そうに見えて、隠れた論点がたくさん存在します。それに、相続放棄はやり直しがきかない一発勝負です。司法書士に数万円~の報酬を支払うことで、時間を節約でき、トラブルや高額な費用、精神的な負担を避けることができます。これを考えると、司法書士にかかる費用は、それに見合った価値があると言えます。司法書士に助言を得ながら安心して相続放棄のお手続きを進めて行きましょう。
※以上の書式は岡山家庭裁判所のホームページからダウンロードすることができます。
「岡山家庭裁判所の手続説明、書式例」
まずは当事務所の
無料法律相談をご利用ください
🔶 岡山市・倉敷市・総社市・玉野市・瀬戸内市・備前市を中心に県内全域で対応可能です。特に岡山市と備前市のお客様から多くのお問い合わせを頂いております。
🔶 高齢の方や身体的に不自由な方にかかわらず、すべてのお客様に対して訪問相談サービスを提供しており、場所にとらわれず便利に司法書士をご利用頂けます。
🔶 ご相談は無料です。お客様のご事情を簡単に教えて頂けましたら、お手続きの費用の概算を口頭でお伝えします。お気軽にお問い合わせください。
🔶 お電話は9:00-18:00まで。土日祝日も可能な限り対応しています。営業時間内にお電話が難しいお客様は、「LINE」や「メール」からでもお問い合わせ頂けます。
「☎0120-764-178」
🔶トップページ
「岡山の相続・遺言は司法書士れんげ法務事務所へ」