相続

相続放棄を取り消すことができる場合

はじめに

 相続放棄は原則取り消すことができません。つまり、「プラスの財産が多かったので、やっぱり相続放棄は無かったことにしてくれ」ということは、原則できません。しかし、次の場合には、相続放棄を取り消すことできる場合があります。

1.相続放棄を取り消すことできる場合

(1)意思能力がない人がした相続放棄(3条の2)

 意思能力がない人とは、自分の行為の結果を合理的に判断できる能力がない人のことです。例えば、重い精神病患者の人は、相続放棄をしたらどうなるかなんて分かっていません。それにもかかわらず、親族に言われるがままにしてしまった相続放棄などは無効で取り消すことができます。

(2)未成年者が法定代理人の同意を得ずにした相続放棄(民法5条)

 未成年者は、自分1人で相続放棄をしても良いかどうかの判断をする能力がないと考えられており、未成年者が相続放棄をするには、法定代理人である親や未成年後見人の同意を得なければなりません。それにもかかわらず、法定代理人の同意を得ずに未成年者が相続放棄をしてしまった場合には、その相続放棄は取り消すことができます。

(3)成年被後見人がした相続放棄の場合(民法9条)

 成年被後見人とは、例えば、認知症などにより本人の判断能力が全くない場合に、家庭裁判所から保護者代わりの成年後見人という人を選任されている人のことです。
 認知症などにより、家庭裁判所から成年後見人を選任された成年被後見人は、相続放棄をしても良いかどうかの判断をする能力がないと考えられています。それにもかかわらず、成年被後見人が相続放棄をしてしまった場合には、その相続放棄は取り消すことができます。

(4)被保佐人が保佐人の同意を得ないでした相続放棄(民法13条)

 被保佐人とは、例えば、本人の判断能力が全くない訳ではないけど、軽度の知的障害があり、本人の判断能力が著しく不十分な場合に、家庭裁判所から保護者代わりの保佐人という人を選任されている人のことです。
 被保佐人は、自分1人で相続放棄をしても良いかどうかの判断をする能力がないと考えられており、相続放棄をする場合には、保佐人の同意を得なければなりません。それにもかかわらず、保佐人の同意を得ずに被保佐人が相続放棄をしてしまった場合には、その相続放棄は取り消すことができます。

(5)錯誤による相続放棄の場合(民法95条)

 錯誤を分かりやすく表現すると、「とんでもない勘違い」のことです。例えば、レプリカだと思って1万円で売ったピカソの絵が実は本物だった様な場合です。このような場合には、売買契約を取り消して、ピカソの絵を返してもらうことができます。相続放棄も同様に、とんでもない勘違いをして相続放棄をしてしまった場合には、相続放棄の取り消しが認められます。
 錯誤による相続放棄の取り消しが認められた裁判例として、次のような事例があります。
 父が交通事故で亡くなり、その交通事故の加害者に対して損害賠償請求をすることができるのにもかかわらず、知人が子に対して、「あなたの父は3,000万円の借金を残して死んだ。相続放棄をしないと、あなたは3,000万円支払わなければならないので、相続放棄すべきだ」と、そそのかした事例です。
 この事例では、錯誤による相続放棄の取り消しが認められました。

(6)詐欺による相続放棄の場合(民法96条)

 例えば、兄が弟に対して父名義の偽造した借用書を見せて、「父は3,000万円の借金を残して死んだ。それなのに、父が残した財産は、1,000万円の預金しかない。だから一緒に相続放棄をしよう」などと言って、弟を騙して相続放棄をさせたような場合です。

(7)強迫による相続放棄の場合(民法96条)

 これは分かりやすいでしょう。日頃から素行が悪い子が母に対して、「親父の相続を放棄しないとタダじゃおかんぞ!」などと言って、無理やり相続放棄をさせたような場合です。

(8)成年後見監督人がいるのに、成年後見人が成年後見監督人の同意を得ないでした相続放棄(民法865条)

 (3)の場合、成年被後見人の代わりに成年後見人が相続放棄をすることができます。ところが、成年後見人に成年後見監督人がいる場合には、成年後見監督人の同意がないと、成年後見人は相続放棄をすることができません。それにもかかわらず、成年後見人が成年後見監督人の同意を得ずに相続放棄をしてしまった場合には、その相続放棄は取り消すことができます。
 なお、成年後見監督人は文字通り、成年後見人を監督する人です。成年被後見人の親族の申し立てや家庭裁判所が職権で選任します。

(9)未成年被後見人が未成年後見人の同意を得てした相続放棄であるが、未成年後見人が未成年後見監督人の同意を得ていなかった場合(民法865条)

 と言われても分かりにくいですよね・・・。これが法律の難しいところです。
 親がいない子どものことを未成年被後見人と言います。未成年被後見人には、親代わりの未成年後見人という人がいます。さらに、未成年被後見人の親族の申し立てや家庭裁判所が職権で、未成年後見監督人が選任されることがあります。
 分かりやすく、未成年被後見人⇒子、未成年後見人⇒父、未成年後見監督人⇒祖父、とします。
 子は父の同意を得て相続放棄をすることができます。しかし、祖父がいる場合には、父は祖父の同意を得ないと、子に相続放棄をしてもOKという同意を与えてはいけません。それにもかかわらず、祖父の同意を得ずに、父が子に相続放棄をしてもOKという同意を与えてした相続放棄は取り消すことができるのです。

2.相続放棄を取り消すことできる期間(民法919条)

 民法919条3項は、「相続放棄の取消権は、追認をすることができる時から6ヶ月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする。」と規定しています。
 「相続の承認又は放棄の時から10年を経過したとき」というのは分かりやすいのですが、「追認をすることができる時から6ヶ月間行使しないとき」は、中々イメージが湧きにくいと思います。そこで、[1.相続放棄を取り消すことできる場合]で説明した順番に、具体例で説明していきます。

(1)意思能力がない人がした相続放棄(3条の2)

 意思能力がない人がした相続放棄は無効でこの世に存在しないものなので、10年経過後でも取り消すことができます。そもそも、「相続の承認又は放棄の時から10年を経過したとき」「追認をすることができる時から6ヶ月間行使しないとき」に当てはまらないのです。

(2)未成年者が法定代理人の同意を得ずにした相続放棄(民法5条)

 18歳になってから6カ月以内です。

(3)成年被後見人がした相続放棄の場合(民法9条)

 成年被後見人ではなくなってから6カ月以内です。

(4)被保佐人が保佐人の同意を得ないでした相続放棄(民法13条)

 被保佐人ではなくなってから6カ月以内か、事後に保佐人の同意を得てから6カ月以内です。

(5)錯誤による相続放棄の場合(民法95条)

 とんでもない勘違いに気が付いてから6カ月以内です。

(6)詐欺による相続放棄の場合(民法96条)

 騙されたことに気が付いてから6カ月以内です。

(7)強迫による相続放棄の場合(民法96条)

 強迫を免れてから6カ月以内です。例えば、日頃から素行が悪い子が同居している母に対して、「親父の相続を放棄しないとタダじゃおかんぞ!」などと言って、無理やり相続放棄をさせたような場合においては、母が子との同居を解消してから6カ月以内です。

(8)成年後見監督人がいるのに、成年後見人が成年後見監督人の同意を得ないでした相続放棄(民法865条)

 成年被後見人ではなくなってから6カ月以内か、事後に成年後見人が成年後見監督人の同意を得てから6カ月以内です。

(9)未成年被後見人が未成年後見人の同意を得てした相続放棄であるが、未成年後見人が未成年後見監督人の同意を得ていなかった場合(民法865条)

 18歳になってから6カ月以内か、事後に未成年後見人が未成年後見監督人の同意を得てから6カ月以内です。

3.相続放棄の取り下げ

 家庭裁判所に相続放棄の申述をしたとしても、実際にそれが受理されるまで時間があります。受理されるまでであれば、相続放棄の取り下げをすることができます。

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