相続

相続放棄後に損害賠償責任を負うことがあるのか?

はじめに

 まず、最初に結論から述べますと、相続放棄後にも損害賠償責任を負う可能性があります。そこで、このページでは、相続放棄後にも損害賠償責任を負う可能性があるケースをご紹介していきます。

目次
1.相続放棄をした時に故人の家に住んでいた場合
2.相続放棄後も引き続き故人の家に住み続ける場合
3.損害賠償請求をされる原因が相続放棄前の自分自身の行為による原因に基づくとき
おわりに

1.相続放棄をした時に故人の家に住んでいた場合

 ※家を車などに置き換えても同じです。
 相続放棄をした人が、相続放棄をした時に故人の家に住んでいた場合には、相続放棄に関する民法940条1項に引っ掛かり、他の相続人や相続財産清算人に対して、損害賠償責任を負う可能性があります。
 それでは、民法940条1項を見てみましょう。
 
 「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は(中略)相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。(以下省略)」
 
 この条文を分かりやすく表現すると、「あなたが相続放棄をしたとしても、相続放棄をした時に故人の家に住んでいたのであれば、他の相続人か相続財産清算人にその家を引き継ぐまでの間、あなたはその家を管理しなければなりません。」と書かれています。この「管理しなければ」という責任を「相続放棄後の管理責任」といいます。
 したがって、相続放棄をした人が、相続放棄をした時に故人の家に住んでいた場合には、「相続放棄をしたから後はよろしく頼む」と他の相続人や相続財産清算人に伝えて退去するまでの間、家の管理を継続する必要があります。家の管理を怠ったことにより家の資産価値を下げるようなことがあれば、他の相続人や相続財産清算人に損害賠償を請求される可能性があります。
 ただし、どの程度管理をすれば良いかについての明確なルールはなく、実際に裁判となった時に、当事者の主張に基づいて裁判官が決定することになります。一般論として、故意に家を壊したというような事情がない限り、損害賠償責任を負うことはありません。

 民法という法律は、「できる限り家を管理する人が不在とならないように」という思想で作られています。家を管理する人が不在になると、空き家が増えて家屋の倒壊等、大きな社会問題に発展するからです。
 なお、相続財産清算人とは、相続人が誰もいない場合に成立する相続財産法人の代表者です。
 相続財産法人を分かりやすく説明すると、相続放棄をした家は法人となります。法人とは法律によって作られた人です。ということは、相続財産法人は人間です。
 人間といっても身体がないので、触れ合うことはできませんし、頭や手足がないので相続放棄をした家に関する手続きをすることができません。
 そこで、利害関係人からの申し立てにより、相続財産清算人という人が裁判所から選任されます。株式会社の社長みたいな人です。
 その相続財産清算人が相続放棄をした家を売却するなどします。その売却代金を故人の債権者に配当したり、国庫に帰属させたりします。

※故人の家や土地の管理者として故人の家や土地を賃貸していた、あるいは使用していた場合にも同様の結論となります。民法940条1項の「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に該当するからです。

※こちらの記事も参考にしてください。
相続放棄をした家の解体費用は誰が払うのか

2.相続放棄後も引き続き故人の家に住み続ける場合

 相続放棄をすれば、故人の家は自分の物ではありませんから、速やかに退去する必要があります。
 ところが、現実問題として、相続放棄後に引き続き故人の家に住み続けたとしても、誰も文句を言ってくる人がいないことがあります。例えば、相続人全員が相続放棄し、かつ、故人の債権者もいない場合です。
 このような場合には、理論上は、相続放棄をした家は相続財産法人となっています。しかし、相続人全員が相続放棄し、かつ、故人の債権者もいければ、いつまで経っても相続財産清算人が選任されることはありません。相続放棄をした家を売って債権を回収しようとする人がいないからです。ただし、後々、相続財産清算人が選任された場合には、相続放棄後の賃料相当額を不当利得として、相続財産清算人に請求される可能性があります。
 相続放棄後も引き続き故人の家に住み続ける場合には、その家の占有者として常識の範囲内での管理責任を負います(民717)。例えば、ゴミ屋敷にしてはいけないとか、隣家に家が倒れないような措置をとるなどです。
 この管理責任を怠れば、近所の人などに損害賠償を請求される可能性があります。

3.損害賠償請求をされる原因が相続放棄前の自分自身の行為による原因に基づくとき

 例えば、相続放棄をする前に故人の家をゴミ屋敷にして出ていった、相続放棄をする前に故人の家をボロボロにして隣家に倒れそうな状態にした場合などです。
 このような場合に近所の人から損害賠償請求をされたとしても、それは自分自身の行為によって損害賠償を請求された訳ですから、相続放棄とは無関係です。
 相続による負の連鎖を断ち切るというのが相続放棄の制度の趣旨です。
 したがって、損害賠償請求をされる原因が自分自身の行為にあるならば、当然その責任を負います。例えば、交通事故を起こしておいて、それとは全く関係ない父の相続放棄をして、「相続放棄したから自分は無関係だ!」と主張したら、交通事故の相手方は激怒することでしょう。それと同じことです。

おわりに

 確かに相続放棄後にも損害賠償責任を負う可能性があるケースはありますが、以上のように、かなり限定されたケースとなります。少しでも不安なことがあれば、お早めに司法書士にご相談してください。


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