相続

生命保険契約により支払われる保険金の相続について

はじめに

 保険契約者(被相続人)が自己を生命保険契約の被保険者とし、相続人の中の特定の者を保険金受取人と指定していた場合、かかる保険金は遣産分割の対象となるのでしょうか。保険金受取人を「法定相続人」としていた場合はどうでしょうか。また、保険金受取人が相続人以外の場合はどうでしょうか。

目次
1 保険契約の調査方法
2 生命保険金は相続財産となるのか
(1)受取人を第三者としていた場合
(2)受取人を自己(被相続人)としていた場合
3 時効の管理
4 保険契約等の評価
5 生命保険金の相続手続き
(1)受取人を第三者としていた場合
(2)受取人を自己(被相続人)としていた場合

1 保険契約の調査方法

保険証券ファイル

 被相続人が自己を被保険者とする生命保険契約を締結していた可能性がある場合、遺言、保険証券、通帳(保険料の引落し口座となっていれば記帳される)、領収証、保険会社からの郵便物、保険会社への問合せ等によって保険契約締結の有無及び契約内容(保険金額等)を確認します。

2 生命保険金は相続財産となるのか

相続悩むおばあちゃん

(1)受取人を第三者としていた場合

 被相続人が自己を被保険者とし、受取人を第三者(相続人の中の特定の者、つまり「法定相続人」以外の第三者)として生命保険契約を結んでいた場合、被相続人(被保険者)が亡くなると、受取人は生命保険金を請求する権利を有します(保険法第42条)。
 この生命保険金請求権は、受取人固有の権利であり、相続人が被相続人から相続によって取得するものではなく、したがって相続財産ではありません。
 ただし、生命保険金の額が相続財産全体の大部分を占めている場合には、特別受益(民法903条に基づくもの)とみなされたり、遺留分を算定をする際に財産に含まれることがあります。

ア 保険契約者(兼被保険者)が相続人の中の特定の者を保険金受取人と指定していた場合

 保険契約者(兼被保険者)が特定の相続人を受取人と指定している場合、その受取人(相続人)は、保険金請求権を持つ固有の権利を得ます(最判S40.2.2、大判S11. 5.13)。
 したがって、保険金は相続財産には含まれず、相続人全員の合意によっても遺産分割の対象とすることはできません。皆さんも、例えば自分の預貯金が遺産分割の対象となり兄が相続することになったらビックリされると思います。それと同じことです。
 相続財産に含まれないため、遺言執行者による保険金請求はできません。そのため、指定された相続人は、自分自身で保険会社に保険金を請求する必要があります。
 さらに、保険金は受取人の固有財産であるため、受取人に指定された相続人は、相続放棄をしても当該保険金を請求することができます。そして、この保険金請求権は相続債権者の引当財産とはなりません(相続債権者に返せと言われません)。
 受取人として複数の相続人が連名で指定されている場合、通常は受取の割合が指定されていることが多いですが、割合の指定がない場合や約款に特段の規定がない場合、指定された受取人は保険金を均等に分けることになります(民427)。

イ 保険契約者(兼被保険者)が保険金受取人を「法定相続人」「相続人」と指定していた場合

 保険契約者が、自己を生命保険の被保険者とし、保険金受取人を「法定相続人」「相続人」と抽象的に指定していた場合、保険事故発生時(被保険者死亡時)における保険者の相続人である個人を保険金受取人として指定した他人のための保険契約であり、保険金受取人は、相続ではなく、固有の財産として保険金請求権を取得します。
 したがって、当該保険金は、遺産分割の対象とはなりません。
 次に、保険金受取人として指定された「法定相続人」「相続人」が複数存在する場合、保険金請求権の割合が問題となります。
 この点について、民法427条は、分割債権に関して「別段の意思表示」がない限り、平等な割合で取得されるべきことを規定しています。
 ところが、最高裁平成6年7月18日判決は、傷害保険契約に関するものですが、受取人が「相続人」と指定された場合には、特段の事情のない限り、「相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれている」として、法定相続分の割合によるものと判示しました。
 ただし、保険の約款において、異なる割合を定めている場合もあるため、該当する保険契約の約款を確認することが必要です。

ウ 相続人以外の者を受取人に指定していた場合

 保険契約者が、自己を被保険者とし、相続人以外の者(例えば、孫、甥、姪、内縁の配偶者、パートナーなど)を受取人に指定していた場合、その受取人が受け取る保険金は、保険契約に基づいて原始的取得する固有の財産であり、相続財産ではありません。したがって、遺産分割の対象とはなりません。

(2)受取人を自己(被相続人)としていた場合

 被相続人が自己を被保険者、自己を受取人と指定する生命保険契約を締結していた場合には、生命保険金請求権は相続財産となり、遺産分割の対象となるものと解されています(東京地裁H8.7.30、東京高裁H24. 7.10、高松高裁H26.9 .1)。

3 時効の管理

 保険金請求権の消滅時効期間は、保険法改正後の平成22年4月1日以降に成立した保険契約では3年間(保95Ⅰ)、それ以前に成立した契約は通常2年間(旧商法663、683Ⅰ)ですが、約款によって3年になることもあります。かんぽ生命保険の場合は5年です(簡易生命保険法87)。
 消滅時効の起算点は「行使できる時」であり(保95Ⅰ)、通常は保険事故発生時とされています(大阪地裁H12.12.8、東京地裁H15.11.6、東京地裁H18.7.26、東京地裁H13.11.12等)。
 ただし、被保険者が行方不明となり、3年以上経過後に遺体が発見される場合には、消滅時効は遺体発見後から進行します(最判H15.12.11)。
 実務上では、被保険者が亡くなった場合、保険金請求の約款を確認し、必要な書類を整えて保険会社に請求することが重要です。時効が近づく場合は、内容証明郵便で請求を催告し、時効を回避するための措置を講じる必要があります。
 複数の受取人がいる場合、代表者を約款で指定していることが多く、代表者が請求すれば、時効の更新又は完成猶予の効果は受取人全員に及びます。代表者を指定する時間的余裕がない場合や困難な場合は、各受取人が自己の受け取り分を請求することも可能ですが、その場合、時効の更新又は完成猶予の効果は請求した部分にのみ及びます。

4 保険契約等の評価

 被相続人が生命保険に加入し、受取人が被相続人自身の場合、保険金は相続財産として扱われ、死亡保険金額が遺産の評価額となります。しかし、受取人が第三者の場合、保険金は受取人の固有の財産であり、相続財産には含まれません。したがって、特別受益や遺留分などの計算や相続税の計算を除いて、遺産の評価には影響しません。

5 生命保険金の相続手続き

(1)受取人を第三者としていた場合

 相続財産ではなく受取人固有の財産であるため、保険金受取人が、生命保険会社に連絡し、以下のような必要書類を準備し、保険金請求を行います。
・請求書
・被保険者の住民票
・受取人の戸籍抄本
・受取人の印鑑証明
・医師の死亡診断書又は死体検案害
・保険証券

(2)受取人を自己(被相続人)としていた場合

 被相続人が自身を被保険者および受取人と指定した生命保険契約を結んでいた場合、その生命保険金請求権は相続財産とみなされ、遺産分割の一部となります。遺言が存在する場合、遺言に従って承継者が保険金を請求します。遺言がない場合、相続人は遺産分割の協議を行い、承継者を決定します。承継者は生命保険契約に従って保険金を請求しますが、具体的な手続きについては保険会社に問い合わせながら進めることになります。

※参考書籍 「相続財産 管理・承継の実務/新日本法規/編集 相続財産管理・承継実務研究会」

おわりに

 岡山の司法書士れんげ法務事務所は、生命保険と相続に関する専門知識を提供し、被相続人の生命保険契約に関する相続手続きや遺言に関するサポートを行っています。生命保険に関する法的な問題や遺産の扱いについてお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。

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